B:紅玉海の荒武者 剣豪ガウキ
ここ最近、紅玉海で紅甲羅のコウジン族が、我が物顔で暴れているという話は聞いているか?
中でも注意しなければならないのが、紅玉海の荒武者、「剣豪ガウキ」だ!彼には、ひんがしの国の漁民、8人の殺害に関与した疑いがかけられている……。
剣の腕は確かのようだから、油断は禁物だぞ。
~クラン・セントリオの手配書より
https://gyazo.com/6c3b000545910d6a94672b3038b3d711
ショートショートエオルゼア冒険譚
イルサバード大陸東州オサード小大陸の東端ヤンサ地方のさらに東側の海、登ってくる朝焼けで真っ赤に染まる海の様子からいつからかルビーの海、紅玉海と呼ばれるようになった。だが海賊が跋扈するこの海域はその美しい呼び名からは想像も出来ないような血なまぐさい歴史のある海だ。経済の発展や外国との貿易の為航海の安全を確保したいひんがしの国と生きるために縄張りやシノギを守りたい海賊との終わりの見えない戦い、そして故郷であるこの海域で勝手な争いを続ける人間によって否応なしに戦いに巻き込まれていった蛮族コウジン族。この三つ巴の戦いは着地点が見つけられないまま近年までの長い年月、泥沼の混迷期が続いた。
もともと紅玉海はコウジン族のテリトリーだった。コウジン族は背中に甲羅を背負っていて亀に似た生態を持つ蛮族なのだが不思議とその個体の性質が甲羅の色に現れる特性があるらしく、知恵に優れ融和を好むものは緑色の甲羅を持ち、武に優れ気の荒い者は紅い甲羅を持っていた。どちらも共に長時間呼吸無しで活動する能力を持っていて水中での活動を得意としているが肺呼吸の為ずっと海中にいることはできない。そのため陸上に集落をつくり暮らしていた。
だが難破した海賊船が流れ着いた事で環境が激変する。オサード小大陸とひんがしの国に挟まれたこの海域は海賊の活動やシノギを得るのに適していたようで流れ着いた海賊を辿って仲間が続々と集まり、原住民であるコウジン族を追いやり集落をつくり始めた。知恵を絞ったコウジン族は人間の魔道士の力を借り、魔力を帯びた空気の泡を作る術を身に付けた。その技術を使い紅玉海の海底に大きな空気の泡を固定しそこに集落をつくることに成功した。コウジン族がそこに移り住み陸上を譲ることで海賊たちと和解し、その確執は解消されたかに思えた。しかし気の荒い紅甲羅達は後から来た海賊達に陸上から追い出されたことがどうしても納得が出来ず、海賊衆の船を沈めたり、海賊衆に闇討ちをかけたりして度々小規模ながらも海賊達との小競り合いが起きた。それでも紅玉海は一定の秩序が保たれた状態で数百年の間安定していた。
その脆い均衡が破られ事態が悪化したのはひんがしの国の進出が原因だった。
鎖国していたため海洋進出が殆どなかったひんがしの国が経済発展を目的にクガネを解放したことで、海岸線には新しく漁村ができ、海には漁船や貿易の為の商船が増えた。獲物の増えた海賊たちは漁船や商船に対して紅玉海での安全な航海を約束する代わりにミカジメ料を徴収し、時には難癖をつけては略奪をし始めた。
そうなれば、当然紅玉海の海賊を恐れてひんがしの国との取引を断る者が出てくるし、そもそも通行料など謂れのない金を取られる筋合いもない。ひんがしの国からすればいい迷惑だ。こうしてひんがしの国と海賊の間に新たな確執が生まれた。
この確執は海賊のことが気に入らない紅甲羅達にとっても絶好のチャンスだった。だが海賊と対峙する事に反対した紅甲羅と碧甲羅の間にも確執が生まれ、紅甲羅は海底の暮らしを捨て、占有者のいなかった鬼が棲む島といわれる獄之蓋で陸上生活を再開する事となった。
こうして、海賊とひんがしの国と紅甲羅が対立し、碧甲羅がそれをとりなそうとするという近年までの紅玉海の構図が出来上がった。
剣豪ガウキの名が広く知られるようになったのはその頃の話だ。ガウキは紅甲羅にあってそのやり方に異を唱える少数の穏健派だった。もちろん自分たちを海底に追いやった海賊は憎いし、陸の集落は取り戻したいが、暴力はまた更に悲惨な暴力を生むだけだと考えていた。そのため単身で度々海賊や漁民の村を訪れ話し合いでの解決を説いていた。
ガウキのその動きを一番煙たがっていたのは誰であろうガウキ自身の仲間である紅甲羅だった。
話しても聞く耳を持たないガウキを何とか止めたい紅甲羅は無い知恵を絞ってある策略を実行する。
ひんがしの国の役人に繋げてもらうため話をしに漁村に向かうガウキの先回りをし、漁村の領民たちにガウキの目的はひんがしの国の漁民の皆殺しであるという噂を巧妙に流布した。
何も知らず漁村を訪問したガウキを得物を持った屈強な8人の漁民が取り囲む。
ガウキは混乱した。自分は人間との共存を望んでいたし、偏見にも長年耐えてきた。なのに8人の屈強な漁師に囲まれているのは何故か、彼は理解できなかった。何故自分が漁民の持つ得物で傷つけられているのか、何故理不尽な扱いを受け、血を流しているのか。そして耐え続けていたガウキはついに刀を抜いた。己を守るため。
その日を境に、絶望したガウキは説得活動をやめ、紅甲羅が戦闘をする時には最前線に立つようになったという。ガウキにはひんがしの国から漁民8人の殺害容疑がかけられ、それをうけたクラン・セントリオからリスキーモブとして登録が成された。自分の意志に反して汚名を背負わされたガウキだったが後悔はなかったという。いや正確には何も感じなかったのだという。自分はモブだから、と自嘲気味にガウキは言ったが負けを認め潔く自害した彼をあたしはモブだと思う事が出来なかった。